「ポプテピピック」のアニメ化、ではなくて、「ポプテピピックのコミュニケーションツールとしての側面」のアニメ化なのではないか

 ポプテピピックのアニメを観た。幾つか考えることができたので書き起こす。

 

 このアニメは「再放送」と称して、10分間放送したのと同じ内容を直後に再び繰り返す、という形をとっている。この「再放送」が、実は1回目と2回目では完全に同じ内容ではなくて、少しずつ変化がある、というのが、ポプテピピックというアニメを特殊な位置付けにしている。

 どういうことか、というと、まず1回目の放送で、視聴者にポプテピピックのアニメのテンプレートを提示し、2回目の放送でそこに変化を加える、という形式を取ることで、「2回目の放送を観ている際の視聴者に、どこに変化があるのかを身構えさせる」という視聴体験を作り上げているのだ。それは大喜利のようなものでもあるし、ラジオの読者投稿企画のようでもある。ある一定の変化しない枠を用意して、その中での振る舞いを細かく変化させることの面白さ、を作り上げている。

 

 ひとつ例を出す。その昔、深夜の馬鹿力というラジオ番組で、ラジオ青春アニメ劇場『燃えろ!光』という企画があった。音声ドラマ作品の連続企画で、とある高校を舞台に、主人公の光くんを伊集院光が演じ、ヒロインのかおりを声優の野村真弓さんが演じるというものである。第1話の内容はオーソドックスで、光くんが野球部をやめたあと、かおりにそれを咎められる中で、実は肘を痛めているためもう投げられないから辞めたと告白し、それを内緒にしてくれよなと念を押したあと、気持ちの整理がついて、新しく他の部活を始めることを決意する、という流れになる。

 さてここで問題が発生する。なんと番組には予算がなく、声優さんへ払うギャラが足りないため、第2話以降の収録はできないというのだ。大変だ!

 そこでこんな解決策が出てくる。「声優さんに新録を頼めないなら、第1話のかおりの音声だけ繰り返し第2話以降も流せばいいじゃないか」

 

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 というわけで『燃えろ!光』のヒロインかおりは、毎話毎話、まったく同じセリフしか話さないキャラになってしまったのだ。そうなると、伊集院光演じる光くんのセリフしか変えることができない。つまり、光くんのセリフのネタを読者からのオハガキとして募集して、それが上手いこと前話の内容から次の話へと繋がるように作ることになった。

 当然ながら伊集院光もリスナーも、かおりのセリフが変わらないことを前提として番組制作とハガキ投稿を続けていく。あるテンプレートの中での限られた変化でドラマを、面白さを創り出していった。

 

 ポプテピピックの話に戻る。『燃えろ!光』で作られたリスナーへの視聴体験と、ポプテピピックのアニメで作られた視聴者への視聴体験は、かなり構造が似ているんじゃないか?まず雛形になる1回目の放送を提示し、2回目でその中に少しずつ変化を加えていく形であることを了解させ、その上での視聴する姿勢を設けさせる。ハガキ投稿によって内容に干渉できこそしないものの、ポプテピピックは「テンプレートと、その改変」を主軸に置いている。

 

 時は昔、ポプテピピックの原作者、大川ぶくぶ氏が出版した東方projectの同人誌にて描いた1コマの「ほあようごぁいまーしゅ!」というセリフがあった。これがインターネット上で話題になり、長いことその1コマの画像を貼るのがおはようの挨拶の代わりのようになったり、2chでは毎日のようにAA化されたほあようごぁいまーしゅが貼られ、Twitterでは今でいうLINEスタンプの代わりのような使われ方をした時期があった。バズったものが定型句のように機能する現象である。この定型句化したほあようごぁいまーしゅ!は、徐々に画像やAAをコラージュされて変化し、セリフを変化させたもの、セリフをそのままにキャラを変えたもの、画風を真似て新しく描かれたもの、と改変されていった。

 そして時は経ち、ポプテピピックのLINEスタンプが公式から発売される。その売れ行きと普及率は凄まじく、常にLINEスタンプストアランキングにポプテピピックが顔を覗かせる状態が続いた。ポプテピピックスタンプは使いやすいものとして一定数の人々に受容された。ほあようごぁいまーしゅ!と同じく、ポプテピピックという漫画はバズり、定型句として使われ、LINEスタンプになることで名実共に「コミュニケーションツール化」したのである。

 

 何か似ていないだろうか?コミュニケーションツールとしてのポプテピピックと、アニメ化されたポプテピピックは、同じような構造と性質をしている。

 

 ポプテピピックのアニメは、テンプレートを示し、それを自ら「再放送」にてコラージュする。声優が変わり、内容が変わり、少しずつの変化を楽しむものとしての2回目の放送がある。ほあようごぁいまーしゅ!がテンプレートとなり、人々にコラージュされ、少しずつ変化していったように。ポプテピピックの漫画の連載が始まり、ある程度認知されるようになった際にもやはり、ほあよう(略)と似た現象が起きた。バズり、定型句になり、コラージュされていったのだ。ポプテピピックはLINEスタンプが発売される以前、既にLINEスタンプのようにコミュニケーションツールになっていた。

 

 このような受容のされ方、つまり、ポプテピピックという作品だけでなく、その周辺状況も踏まえての映像作品化のように私は思う。当記事のタイトルを繰り返す。

ポプテピピック」のアニメ化ではなくて、「ポプテピピックのコミュニケーションツールとしての側面」のアニメ化なのではないか。

 

 未だ放送途中であるため、答えではなく問いの段階にとどまるものとする。