漫画『ルックバック』感想

藤野が「私が連れ出したせいで」と後悔して責任を感じるあと、藤野が漫画を描かず空手をやっていて偶然京本を救う空想のシーン、たとえ藤野と京本が出会っていなくても京本は美大へ行っていたかもしれないし、何よりも、藤野が京本を部屋から外の世界に連れ出したこと、一緒に遊んだこと、一緒に漫画を描いたこと、仲良くなったこと、大切な友達になったこと、その全てが、藤野が描いた漫画が京本に届いたこと、京本の描いた漫画が藤野に届いたことで始まっていて、その全てが、描かなきゃ始まらなかったこと、築けなかった時間を作っていることに藤野が思い至ること、それでも悲しみと喪失感から立ち上がれない藤野が訪れた京本の部屋には、藤野の漫画の単行本がある。

「この続きは12巻で!」

楽しみに待っていてくれた人に向けて描く。また机に向かう藤野。もう京本には届かない。でも描く。たぶんこれからも何度だって藤野は京本が居ないことの悲しみを受け止めきれなくなって喪失感で潰れそうになる。自分のせいだと責めたり、でも描いたから出会えて作れた時間があるんだと思い直したりの繰り返しの中で、もしかしたらまたマンガを描けなくなるかもしれない。それでも今また藤野は描き始めた。藤野がそれを今考える余裕があるのかは分からないけど、藤野のマンガが届いていた相手は京本だけじゃないことも、いつか振り返る時がある。どこかに京本みたいな人が居て、もしくは全然京本とは似ても似つかない人でも、その人が臨むのはマンガなんかじゃ全然なくて、その人のやりたいことを見つけて向かうんだとして、藤野のマンガがその人を外へと連れ出していく。そういうキッカケになりうることが藤野にとってはすごく怖くなることも、描く理由になることも、両方合わせて、悲しみと喜びを振り返りながら、描いていく。