毎日は坂をやる

 缶コーヒーのプルタブを勢いよく引っ張って反対側まで押し込みすぎて飲み口からタブが出てこなくなって、それでもコーヒーは飲めるよ、でも気になるからなんとかしてタブを引っ張りだそうとしてたら指を切って、血がコーヒーの中に落ちていって、もう飲みたくないんだけど、もったいないから我慢して飲む。特に味は変わらない。

 

 苦さの中に血を探している。探したくないけれど。歩きながら。

 

 猫が人間を飼っている社会、というものを思いついて、それに整合性を持たせるために、どうにかして人間の自由意志を奪おうとか、そんなことを考えていたけれど、黒猫の名前はメサというんだ、それしか決まらない。主人公はメサだ。猫の支配する社会。人間は猫の世話をするためだけに生きていて、ひどく従順で、猫の生活の補助を担うことに喜びを感じていて、でも、それがなんなんだ。猫は仕事をしている。

 

 あの缶コーヒーを買ったのはドラッグストアだったけれど、その空き缶を捨てたのは帰り道にある自動販売機に備え付けられたゴミ箱だった。ゴミ箱に缶を投げ入れるときの小さな罪悪感が心地よくて、それについて考える。どうして申し訳なく思うのだろう。この自動販売機で買った飲料以外の空き缶を捨ててはならない、ということはないはずで、でもそんな気もする。ぼんやりとしたモラルに目をとじる。

 

 目をひらく。自動販売機の上にメサが居た。もちろんそれはメサではなくて黒猫なのだが、私の思い描くメサが、たしかにそこに居たのだから、私にとってはメサだった。

 手を伸ばす。メサに触れようとする。昼も夜も消えていく。

 

 身体をくの字に折り曲げていた。背骨が、ベッドが、脳が、何もかもが軋んでいる。寝たままで伸びをしようとして頭をベッドの柱にぶつける。目が覚めた。

 すぐにまた眠りに入る。ドラッグストアへ。コーヒーを買いに。あそこが一番安いから。