『ib -インスタントバレット-』という漫画がとても良い

 

 

 良い。

セカイ系、という括り方や捉え方があまり好きではなくて、でもそう揶揄されるジャンルや作品が好きな私はセカイ系を読むたびに「セカイ系じゃないって言ってるだろ!」と虚空に向かって拳を突き上げているのだけど、この漫画、『ib -インスタントバレット-』に関してはそれがない。

エピローグから導入に入り、世界が既に終わってしまった時点から物語を遡り、登場する少年少女それぞれの鬱屈が能力の発現に関与していて、と何を説明すればいいのか私はよくわかっていないので魅力をどうやって伝えるか勘案しながら漫画を読み返しているんだけど、この漫画の最大の魅力の一つに「敗者復活戦」としての趣があると思う。

敗者復活戦。落伍者の返り咲き。踏みつけられてきた者たちが何らかの力を手に入れて行使して世界を揺るがしていく、というのがセカイ系の中にも沢山あって、それは強い絶望だったり悲しみや怒りに呼応して現れる、というセオリーのど真ん中、王道すぎてもう誰もやらなくなってしまったような真っ当なセカイ系を、ibは果たしている。

セカイ系に類する作品が雨後の筍のように世に出され、そして色々な形で論じられ、擦り切れてしまいそうなジャンルになっていても(そう思っているのは私だけか?)、この漫画はそうじゃない。これだけインターネットが普及している時代に全くといっていい程に毒されずにセカイ系を描いていて、この作者はもしかして最近ようやく電気が開通した離島の僻地から原稿を送ってきているのか?と思うほどに純粋な漫画だった。かといって作者がインターネット内外のクソみたいな文化に全く触れていないから影響を受けていない、というわけではなくて、作者自身が数々の作品に触れてきていて、それでいて、この漫画を描いているのだ、ということが嬉しい。汚染をはねのける強い免疫力を持った漫画家だ。

タイトルの示すように、登場する少年少女は 使い捨ての弾丸 ( インスタントバレット ) なんだけど、この漫画はやっぱりそこは王道に「俺達は使い捨てじゃねえ」といった咆哮があって、でもそこを声高に喧伝するわけじゃなくひねくれ半分に色んなことに怯えて諦めていて、とバランスがとても良い。雑然としながらまとまっていて、面白さとつまらなさの割合(つまらない部分をどう采配して落としこむかは大事だと思う)も良くて、この作品自体にも、作者にも期待が持てる。

一時期打ち切りの話が出ていて、今はどうなっているのか分からないのだけど、是非とも作者の描いている終わりまで描けるよう、連載が続いてほしい。