月の光をぶった斬ったUFO撃ち落とすたまゆら

 人間らしさというものを自分の言動以外から感じたことが無いな、と思う。言い換えれば温かさ、でいい。私の言動だけが穏当にぎこちなくて、確かに生きているからこその律動を感じさせる。他は皆おそろしく冷徹で非人間的で、いやもう非人道的なレベルにまで達している。怖い。どうしてそんなに血の通わない振る舞いで生活を埋め尽くせるんだ?お前らいったい何者なんだ。名を名乗れ!

 

心を自衛するために、直視すると気を病むだけの現実を取り除いてやるために、たくさんの虚飾を重ねてきて、本当のことが分からなくなって、でも分からなくなったふりをしているだけで、だから心はちっとも守れていないし、気は病みまくりで、現実の輪郭が浮かび上がるほどに虚飾が秩序を持ってしまって、ただ手間が増えて面倒になるだけの数年間を過ごしてきた。煩雑な手続きを幾つも経て、やっと自分の抱えている苦しみを吐き出した、と思うと、それは幾重にも設けられたフィルターを通しているから既に何も含んでいなくて、もうフィルターの外し方は分からないし、外したところで、何も含んでいない空っぽな液体しか出てこず、それでさえ、もう残り少なくなっていて、あと一滴あるかないかだ。この一滴が自分に残された最後の自分なのか?なんか違うよな。

 

ほら。こんな具合なんだ。迂遠で曖昧で実態に迫らない喩えでしか何も言えない。もう自分が具体的にどんな状況に置かれているのか口にすることができない。察してほしいわけでもない。むしろ察せられたら傷ついて、察した人を抱いて火口に飛び込むくらいには、この無意味な幻想を守ろうとしている。心臓が移動したんだ。私を守るために拵えてきた卵の殻のほうに心臓が移動したんだ。そっちが傷つくとひどく痛むんだ。胸を抑えて這いつくばっているのに、卵の殻を通して呼吸すれば、なんとか歩けてる気になるんだ。殻の中に居ないと、殻の外に居るような気分になれない。勘違いして本当に外に出た途端に死にそうになって、でもそんなことで死んだりしなくて、泣きながら帰ってきて不貞寝する。また夢を見る。長続きしない夢を。