うさぎと歯ブラシ

 アボカドが苦手だった。

味が苦手とか森のバターなどという気取った通称がムカつくとか、そういう理由ではなくて、やつは私が小さい頃に飼っていたウサギの仇だから、だった。

私の父親はアボカドが好きで、よく買ってきてはあれこれ調理して食べていたのだけど、何を考えたのか、食べ終えた後に残ったアボカドの種を「もったいない」と思ったらしく、我が家のウサギの餌入れに種を入れてしまったのだ。

まさかアボカドの種に含まれている毒がピンポイントでウサギを死に至らしめてしまうなんて父は知らなかったし、家族の誰も父がアボカドの種をわざわざウサギに与えると思わないし、そもそもなんでアボカドの種の毒はウサギを死なせてしまうんだ。なんだその組み合わせは。

というわけで我が家に居たウサギのなっちゃんはアボカドの種を半分くらい食べた後に動かなくなってしまった。一緒に暮らしていたウサギのゆきちゃんは「これ食べ物じゃないでしょ」と言わんばかりにアボカドの種に見向きもしなかったので助かった。どうやら好き嫌いか生存本能のどちらかが彼女を救ったらしい。

そんなわけでアボカドが嫌いだったし、結構長い間、父のことを恨んでいて、何か父に対して不満があるたびに私が「お前のせいでなっちゃんが……」と包丁を研ぎ、父が怯えながら土下座する、という生活を送っていたのだが、最近になってアボカド結構おいしいな、と思うようになり、なあなあの内に私とアボカドは和解した。父とは未だ係争中である。

巨大なハンバーガーにアボカドが挟まれていると満足感があるし、刺し身のようにして醤油をつけて食べるアボカドもおいしいし、一度「おいしい」と思うとなんでもおいしく感じるので良い。ただ、どうしてもアボカドを見聞きし食べるたびに、なっちゃんのことを思い出して悲しくなる。まだ小さかったのに……どうして……

 

 

 

 友人の家でシャワーを借りているときに、シャンプーラックのところに歯ブラシが置いてあって、その歯ブラシの柄に「瓜ブラシ」と友人の手書きの文字で書かれていたので、シャワーを浴びているあいだ、それが気になって気になって仕方なかった。

瓜ブラシってなんだ。キュウリでも洗うのか。風呂場で?それとも、身体を洗うスポンジ代わりのヘチマでも掃除するんだろうか。想像がつかない。

あまりにも気になるので風呂あがりに聞いてみることにした。

「風呂場にあった歯ブラシ、なんに使ってんの?」

「ん?ああ、あれ、爪の間洗う用」

 

漢字……間違えてる……!