映画「タクシードライバー」の感想

ラヴィスはどういう人間なんだろう。

アイリスに対して、家に帰れ、学校へ行け、と強く言う姿から、おそらくトラヴィス自身がそういう人生を送りたかった(が、送れなかった)ことが窺える。映画全編を通してわかる通り、トラヴィスには教養がない。デートでポルノ映画へ行き、政治は何もわからないと遠ざける。トラヴィスは自分の抱えている苦しみや問題に対処する術を持たない。彼は助けを求めることができない。どうすれば自分が助かるのか分からないからだ。最も、これは彼個人の問題ではない、70年代当時のアメリカで、PTSDに苦しむベトナム帰還兵を救う方法は殆ど誰も持ち合わせていなかった。トラヴィスの運転するタクシーに乗り込んだ議員とのやり取りの中で、もしトラヴィスに少しでも知恵があれば、当時のアメリカに少しでもベトナム帰還兵への理解や配慮があれば、彼は議員に「君の考えるアメリカの問題は?」と訊ねられたとき、自身のようなベトナム帰還兵が定職に就けずにいること、日々苦しんでいることを訴えることができた。それすら叶わない、出口のない生活の中で、彼は破滅へと突き進もうとする。

ラヴィスは破滅したいのだろうか?

おそらく違うだろう。いっそベトナムで死んでいたら、と思うことが微塵もないとは言い切れないが、彼は死のうとはしていない。彼は終わらない地獄からの脱出方法がわからない。閉塞感の中で思いつくのは、自分なりに思いついた義憤、怒り、正義のための戦い。

ベトナムで戦い、そして勝利も正義も得られずに帰国し、不眠症を患い、苦しんでいたトラヴィス。彼は自分の暮らすニューヨークを綺麗にするために、凶行に及ぶ当日、髪を刈り上げモヒカンにする。かつてベトナムで自身か……もしくは戦友がしていたであろうモヒカンに。

しかし、幸か不幸か、彼の凶行は失敗し、思っていたのとは違う結末を迎える。これは彼の救いになったんだろうか?少しはガス抜きになったのか?

 


まだトラヴィスの苦しみは終わっていない。いつか、また怒りと苦しみが爆発する日が訪れて、そして、彼に2度目の幸運は無いだろう。