時系列を思い出せずバラバラの日記-8月から10月半ば

 彼女が入院することになった。婦人科の病気で、手術のための入院だった。彼女の両親が訪れ、そこで初対面となり挨拶をする。緊張する。遠方の実家から、少し離れた大学に通っていた彼女が、通っていた大学から更に離れて東京へ来たのは私が原因だったし、親元から娘さんをかなり引き離してしまったように感じていたので申し訳ないような気持ちがあった。手術の前日に彼女のお父さんと長いこと話し込む。戦々恐々としながら、でもできるだけ彼女が東京で暮らしていくことを了承してもらえるように、と頼み込むように話す。てっきり彼女の父は娘が東京で暮らすことに反対していると思い込んでいたのだけれど、実はそうでもなくて、がんばってやっていけるなら、好きなようにしていい、と言ってくれた。少し気が楽になる。彼女のことだけでなく、お父さんの仕事のこと、伝統芸能のコンテストの1位を決めるときの基準がよくわからなくて不思議だとか、地場野菜には名前のわからない謎の品種があるだとか、君、シンゴジラは観ました?面白かったですね、と話をふられて、よく話すお父さんなのでそれはもう、とりとめもなく縦横無尽に色々なことを話してくれる。私も話好きなので延々としゃべり続ける。どこかで、気に入られたい、いっちょ前にかっこつけておきたい気持ちも多分にあって、ずっと背伸びをし続ける。

 手術当日、手術の時間になり、手術室へと向かう彼女を見送るのがなぜか私一人になってしまった。彼女の両親と私の両親がちょうど席を外していて、彼女の職場へと赴いていたので、手術の時間が少し繰り上がったことで時間が合わなくなったようだった。

 関係者以外立ち入り禁止の、ガラスのドアに看護師さんがカードキーを通す。彼女が振り返る。

「じゃあね、あ、そうだ、私のソシャゲのスタミナ消費しといてください、今から三時間くらいできないからスタミナ腐っちゃう」

「いいよ別に、今そんなの、やっといてもいいけど」

「麻酔切れるまで時間あるし」

「あはは」

看護師さんが笑う。

「ご家族の方はお部屋のほうでお待ち頂いていいですか?手術内容、術後のことを説明にあがりますので」

「はい」

 ご家族の方、と呼ばれて勝手に嬉しくなる。今は手術前なのに。

「じゃあね、ばいばーい」

そういって彼女は手術室へ歩き出す。いつも彼女の”じゃあね、ばいばーい”の言い方は、なんか冷たくて意地悪で、手術の前でもそれは変わらなくて寂しくなる。ちょっと嫌味っぽいイントネーションをするのだ。わざとなのか、単に発音がちょっと変わってるのかは分からない。からかわれている感覚になる。

右に寄せてください、と指示されていつもと違う髪型になった彼女の、手術着の背中を見送る。

 

 病室に戻る。一人で落ち着かずに待ち続ける。ソシャゲのスタミナ消費しといて、と言われたけれど、とてもじゃないが気が気じゃなくてできない。手術の成功率自体は高くて、そんなにものすごい重症ではなくて、後遺症もないはずで、心配しなくてもいいとわかっていても、万が一、と考えて気もそぞろになりながら、椅子の上でおとなしくしている。看護師さんが訪れて、いま麻酔が効いて手術が始まったところです、腹腔鏡手術なので三か所に穴を空けて、と説明をする。手術前にも聞いているので同じ内容の繰り返しなのだけどかじりつくように聞く。

説明を終えた看護師さんが病室を出て、また一人になる。産婦人科と婦人科の病院なので、廊下から新生児の泣き声が聞こえる。

 

 手術が無事に終わり、麻酔が効いたまま、眠った状態の彼女が部屋へと運ばれてくる。時間をかけて、すこしずつ彼女が目を覚ます。安心して泣きそうになる。

あつい、きもちわるい、みずがのみたい、と騒ぎ出す彼女のまわりで、私、私の母、彼女の母の三人が布団をはぐって調節したり、うちわで顔を仰いだり、水差しで水を飲ませたりして意識が戻るのを待つ。無事に終わってよかったね、と三人で顔を見合わせる。私が水差しを傾けているときだけ彼女が「水が入ってこねえ~~」と文句を言う。

 

 彼女の退院当日に、今度は私の体調が崩れる。40℃の熱が出て引かない。なんだろうと思ったら急性虫垂炎だった。退院に付き添えなくなってしまった。かっこわるいね、と母に言われる。でも盲腸だし仕方なくない?かっこわるいけどさ。その前日に、彼女から「私が退院したら今度は○○くんが体調崩して倒れるんじゃないですか?」と言われていたので、それがピタリと当たってしまう。本当になっちゃったね、と笑う。

 

 虫垂炎は点滴だけで治ってくれて手術なしで済む。治った直後から夜勤の仕事が始まる。本当に大丈夫なのか、と自分の体調を疑いながら働く。案外やれるので続けている。

 

 ポンピドゥーセンター傑作展、クエイ兄弟展、渋谷のプラネタリウムを観に行く。

 

 地元にある前から気になっていた和食屋さんがおいしいと評判なので行ってみる。確かにすごいおいしかった。もっと早く来ればよかった。

 

 5人集まって公園でキャッチボールをする。昔使っていたグローブが見つからない。グローブを探していたらローラースケートを発見する。ちょっと履いてみて近所を少しだけ走る。路面がザラザラで滑りにくい。近くにつるつるの地面のローラースケートパークがないだろうかと探す。グローブを探すのを忘れかける。キャッチボールのあとに喫茶店と居酒屋へ行く。私以外みんな喫煙者で煙たい。

 

 初めてネトゲのオフ会に出席する。思ってたよりゲームの内容についてがっつり話す。昔の弱かった頃に全然走れなかったイベントの中途半端に手に入れた装備を見るたびに悔しいよね、って話をする。馬肉のお店だったので馬を様々な料理形態で食べまくる。おいしかった。直後にネトゲ内のチャットで「馬ウマい」と発言が飛んでくる。