今年観た新作映画の感想

 まだ今年は終わってないのですが暫定的に。

 

  • バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

 落ちぶれた俳優がブロードウェイで再起を図る話。簡単にいうと失敗する物語で、主人公はいろんなことに失敗して、結局最後まで全てに失敗するんだけど、そこに余計な寓意とか感慨みたいなものは無くて、超かっこいい映画でした。カメラワークが凄い。今年観た映画の中で、今まで観てきた映画の中で最も鮮烈で、喉笛に噛み付いてくるような獰猛さがあった。

 

 

 ちゃんとエンターテイメントだった。悪いやつが燃えながら悲鳴あげて水に落っこちる映画好きなんですよ。あと伊勢谷友介の演技が良ければ映画の評価を全体的に押し上げることが可能なので邦画全部に伊勢谷友介を出そう。スパイ映画として普通に良くてびっくりした。

 

ジョーカー・ゲーム(Blu-ray 通常版)

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  • リピーテッド

 前に感想を書きましたが

映画『リピーテッド』を観てきた - さよなら帝国

 しばらく経って思い返すとそんなに悪い映画ではない。ただどうしても『メメント』と比較したときに単純に面白くない。意外性だとか新奇性がゼロなので、記憶喪失モノ、前向性健忘モノを全く観たことがないよ、という人ならソフトランディングな一本目としては良いかもしれない。劇中やたら不倫が多いので、不倫を疑われている人は一人でこっそり観ましょう。マーク・ストロングが注射器持って走って追いかけてくるシーンがすごく良いです。怖い。他は普通。

 

 私立探偵がロサンゼルスをふらふらする話。探偵もロス市警も渋くハードボイルドに締めくくってくれて、というか映画全体が軽妙洒脱で、決めるところ決める、控えめさと過剰さの配置が絶妙な映画でした。

 

 

  • ミッション・イン・ポッシブル:ローグ・ネイション

 上質さに欠けてる。そこが良い。安心感しかないですからね。スパイ映画なのに。観るエンヤって感じでした。イーサンがピンチに陥る→謎の女スパイが助けてくれる→イーサンが惚れる→フラれる→女スパイに情報持ち逃げされる→イーサンまたフラれたのかよ元気出せよと仲間たちが慰める→でも女スパイを助けに行く、の流れは40年くらい続けてほしい。例えばだけど私いまオムライス食べたいんですよ。40年後でも私は普通にオムライス食べたいと思う。そういう位置にある。40年後にもミッション・イン・ポッシブル観て「俺らもイーサンも変わんねー」って言いたい。

 

 面白い映画体験だった。思い出すとめっちゃ笑えてくるので観て良かった。鎧の巨人の質感が特撮のスーツで、特撮モノとして観ると良いところと御約束がしっかりあって、そしてそこ以外に難色を示される部分が山程詰め込んであって贅沢な作りだった……なんなんだ……前編の卑怯なくらいのギャグ構成の面白さに慣れたせいで後編は普通の映画に見えてしまって物足りなかった。草なぎ剛ピエール瀧が二人並んで立ってると「くそやばいキチガイだ!」感がすごくてズルい。あと映画の時間が短いのに白い部屋で話してるシーンが長いのは尺が心配でスリルあった。正直な話こういう問題児的な映画のほうが観るの楽しい。学芸会で友達がセリフ忘れてごちゃごちゃに誤魔化して、後で楽屋裏で「めっちゃ間違えた……」と落ち込んでるときに「ナイスアドリブー!」と言いながら肩パンしてる気持ちになる。ちょっと違うな。違うんだけどニュアンス的には近い。

 

 4DXに合ってた。

 

  • キングスマン

 スパイ映画のガジェット的な部分へのロマンを程よく散りばめていて、そして悪趣味な演出が最高にイカしてた。下品、悪趣味、という道具の使い方が上手い。冴え渡るようなアクション。

 

 

 

  • ジュラシック・ワールド

 予告編を観たときに、お兄ちゃんすごい意地悪そうに見えたのに、本編を観たらお兄ちゃん普通に最初から面倒見の良い優しいお兄ちゃんだったから「お兄ちゃーーん!好きーーー!」ってなった。社長のキャラが良すぎる。3Dで観たらテーマパーク感が強くて楽しかった。シンプルな構成なんだけどシリーズ中屈指のドミノ倒し感が有って、多分だけどジュラシックパークシリーズ最大の売りの「状況の悪化」という点に関しては描き方がすごく良い。恐竜が好きな人はダイナソーとか観たらいいよ。ダイナソーの内容もう完全に忘れた。南とか目指してたと思う。南を目指す映画は名作だぞ。北に逃げる映画も名作。

 

 

  • ピクセル

 高精彩で極彩色のクソ映画。全方位敬意欠落マシーン。なんかダメな点はすごく多いんだけど、そもそもこの映画はそういうダメな点をひたすらダメにすることでゲテモノ化することを狙ってるから、ファミリー向けでもオタク向けでもなくて、誰にも向けられてない娯楽なんだと思う。天に唾する、と言いますが、この映画は完全にそれです。偏見とかイメージとか国辱から入ってくところが良い。

 

 

  • ジョン・ウィック

 拳銃の構え方にCentar Axis Relock Systemというものがあって、主に屋内、近距離での射撃と格闘のために拳銃を握りやすく、保持しやすい(叩かれて落としにくい)、反動を押さえやすいようにする近接戦闘のテクニックなんですが、この映画は主人公に全編通してそれを徹底させていて、ガンアクションのシーンに関しては最近のアクション映画の中で一番考証がしっかりしている、なおかつ魅力的なものになっています。ひたすらかっこいい。かっこいいけど「魅せる」アクションじゃなくて、淡々と確実に敵を殺していくもので、無愛想なタンゴを最低限のステップで踊ってる、そんな感じの洒落っ気ゼロ殺し屋映画として非常に良いです。あとは裏社会の設定がかっこいい。ただシナリオとかは全然無くて、タメ、スリル、がゼロなので、映画として観るときにそういったところを期待すると肩透かしはあるかもしれない。とにかくアクション!

 

 

  • 心が叫びたがってるんだ。

 作劇のために不自然なくらい幼少の子供につらく当たる親が出てくる作品きらい!とは思うんですけど、そういう部分が別に創作物特有のものじゃなくて、実勢にああいう親はいるんだよ、と教えられて、そうなのか……と世の中に嫌気が差してから観直すと、作品の中のご都合的な部分、ある程度の無作為な部分、それぞれに魅力と作り込み(と敢えて作りこまない部分)の丁寧さを見て取って、いいや、ちょっと停車します。私も自分で自分に掛けた呪いを解こうと思いました。普段全然感情移入とか共感とかしないし、映画に対してそういうものを抱いたと公言するの月並だから嫌だ、と思ってるんですが心がズタボロになってて素直な気持ちで観たら「私も成瀬順だ……」ってなった。もし余裕のある状態で観てたら面白かったねで済んでる。瀕死の状態で観たからこそヘンテコな自分位相に取り込んで観ることができてよかった。あとフラれヒロインが好きなのでそこも良い。ワイルドアームズ2のリルカが今でも好きなように成瀬順が私の中に深く刻み込まれた。

 

「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

 

 

 悪役に覇気が無い。記憶の中でスターウォーズを美化しすぎてたのか、幼少期の映画をほとんど観てない状態でシリーズ全部観たからこそ感じていた面白さを今はもう感じられないのか、それとも……と物足りなく思いつつも美術は本当に良い。印象的に見せたいシーンを長く続けるのはかっこわるいなと思う。もっと見得を切ったらすぐ動いたり転換したりのほうがインパクトは強いんじゃ……どうしてそういう部分で過去の演出を真似ないんだろう……。CGもディズニーっぽくなった。今後の展開の中でどう寄与していくのか気になる点が幾つかあって、これまでのシリーズよりも細かい要素要素が多く感じて楽しみ。話に絡んでこない原生生物が砂から顔出して登場人物を見送るシーンがあると、あっ、スターウォーズだ、スターウォーズのこういう部分好きだ……と非常に満足する。コンセプトやデザインを楽しむ。

 

  • ガールズ&パンツァー劇場版

 映画的だった。アニメ映画って導入にやたらと尺と説明ともっともらしい理由付けを割いてて、結果的に頭がデカい痩せた犬みたいなクリーチャー化するじゃないですか。あれイヤなんですよ。ガルパン劇場版は毛皮の剥がれたイノシシだった。ものすごい太っててタフ。「廃校は撤回するって言ったじゃないですか」「あれは口約束ですから」とまた廃校の危機に陥る、というTVシリーズを雑に引っ繰り返して始まるところに不満を持つ人がいるのも分かるんですけど、この映画自体がTVシリーズの後のエキシビジョンマッチみたいなものなのでストーリーの最初で本編と上手く噛み合ってない展開が出てくること自体には特に問題はないのでは?と思います。誰もが納得いく理由と展開を用意したところで別にそこに労力割いてもリターンが少ないし、何より戦う理由が切実であるかどうかは健闘に必要ないんですよ。味方も敵も勝ったあとの褒賞のためじゃなく「勝つ」ために試合に臨んでいて(これは脚本上ではなく描き方としてそう見えるように作られているということです)、その潔さを演出するために、むしろ雑な導入が生きてくる。映画一本の中に導入部分と試合部分に断絶があって、試合中に「ここで負けたら、廃校になっちゃう!」「負けられない!」みたいなこと言わないのがすごく良い部分です。

 

  • コードネームUNCLE

 いわば元祖スパイ映画。面白い。格段に面白い。大味な脚本、監督の癖が強く出る演出、魅力的なキャラクター、コミカルな掛け合い、全体的に「すごく良く出来たコント」みたいなところがあって、もし生まれて初めて観る映画がこれだったら映画のこと大好きになっちゃって映画観まくるんじゃないかと思う。昔からある手法ですが最近は特に流行りの「同じ画面の中にピントを合わせてある人物と他方向の人物や風景を映し込むために鏡を使う」というのがあって、先に上げた『バードマン あるいは』で楽屋への来客と中に居た人物を鏡を使って同時に映す、『ピクセル』でクローゼットの中と来客を同時に、があるんですが(どっちも撮り方が上手い)、UNCLEでは劇中とあるシーンで、それを車のサイドミラーを使ってやってるんですよ。車のサイドミラー小さいじゃないですか。あれに人物の顔を映して、サイドミラーの周囲のボケた背景をそのまま画面にする、という。この手法は『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』だったかな?でもやってた気がするんですが、すごく印象に残るし、それをギャグでやってくるから本当に良い。いやフォンターナ広場じゃないかも……思い出したら追記します。あとは漫画の枠線みたいなのを出して画面を分割して、バディが合流したときに枠線を下にスーッと縮めて画面をくっつける、という部分が面白かった。『キングスマン』でもスパイ候補として修行してるシーンと、工場の量産シーンを枠線で区切ってスクロールして同時に見せつつ要約する部分がありましたが、UNCLEだと見せ場にしていいはずのアクションシーンを容赦なくコマ切れにするので、スパイ映画にアクションを求めてる人にとっては爽快感が足りないかな、と思う。そこが潔くて魅力になっている。

 

「コードネームU.N.C.L.E.」 オリジナル・サウンドトラック

「コードネームU.N.C.L.E.」 オリジナル・サウンドトラック

 

 

 

 長々と書きましたが、今年の映画でおすすめを三本あげるとしたら、

バードマン あるいは

コードネームUNCLE

インヒアレント・ヴァイス

です。

 アクションが観たい!って人はキングスマンとジョン・ウィック、ミニ四駆が観たい!って人はガールズ&パンツァー、つらい思いがしたい!って人は進撃の巨人実写版がおすすめ。

 

 観たことを忘れてて書いてない映画と、観たけど観なかったことにしたい映画があるので、ここで一旦終わり。