映画『リピーテッド』を観てきた

 面白くなかった。

 

 どこがどう具体的に面白くなかったかを書き出してみる。

ネタバレあり。

 

 主人公のクリスはふと目を覚ます。誰だか知らない男性が自分の隣で寝ていて、不安に思いながらベッドを抜けだしてバスルームへ行くと、壁一面に先ほどの男性の写真が貼られている。写真の横には付箋があり、この男性の名前はベン、君の夫だ、と書かれている。バスルームを出ると男性が起きていて、僕は君の夫だ、14年前から、と言う。君は事故のショックで健忘症になっており、記憶を一日しか保持できない。いつも朝になると全てを忘れていて、20代前半の頃の自分のつもりで目を覚ますが、今の君はもう40歳だ、と告げる。

 

という感じで始まるんですが、記憶喪失モノや前向性健忘症モノにお決まりの「周囲の人物が嘘をついている/誰かになりすましている」を特にひねりのないままやったせいで話に起伏が無いし二転三転しないしで面白くなかった。

 前向性健忘症の患者が必死に記憶を保持したり自分へと警告するために行う書き取りや記録を、リピーテッドではデジカメのビデオ撮影で行っているんだけど、これもよくなかったように思う。

 前向性健忘の書き取りと記録はそれそのものにトリックを仕込めるし、幾らでも誤認の余地を残せるのに、話を面白くできるのに、そこを全く生かしてなくて、それどころか逆に「映像の背景にあったはずのものが無くなっている」ことに主人公が気付く形でデジカメでの記録を利用していて、本当に面白くない、脚本がどうとかじゃなく演出が面白くない、脚本も面白くないけど。原作の小説も面白くなかった。

 全体的に情報量が少ない上に登場人物たちがすぐ浮気するから言動がひたすら浮ついててムカつくし、出演者たちの演技が上手いのが悪く作用してて「ゴミみたいな行動してるくせに何をかっこつけて愛を語ってるんだこいつ」と思ってしまった。

 夫のことを信じ切れない主人公が彼の目を隠れて医師と密会しながら健忘症を治療しようとしているんだけど、そうやって治療しようとしていたことや、その中で夫への確かな愛が自分の中にあることに気付いて、夫へと全てを告白したら「医師と浮気したんだろ?」と夫にぶん殴られてショックを受けるシーンの背景に、夫が実は夫ではなくて、主人公が記憶を失くす前に交際していた愛人が主人公の前向性健忘を口実に夫になりすまして偽の夫婦生活を送っていたから、主人公が夫への愛を熱っぽく語るたびに偽夫がストレスを貯めてて、しかも治療が功を奏して事実を思い出してしまったら困るのも相まって苛立ちのあまりに主人公を殴ってる、という事情があるんだけど、それが分かったところでそんなに腑に落ちないし、自分から夫になりすましておいて夫への愛を語られて「そんなん言われても俺、愛人だし……夫じゃないし……もう夫のフリするの疲れた……」と機嫌を悪くされても困る。じゃあやめろよ。

 主人公も主人公で自分が過去に浮気をしていた事実を自分が忘れていて、夫はそれを知ってショックを受けつつも気遣って健忘症の妻へとそれを伝えないようにしてくれていた、と捉えていて、ああなんてあなたは優しいの、みたいな感じで愛情をどばどば垂れ流して表現してくるんですが、これも普通にムカつく。全体的に登場人物の言動がクソすぎる。さっきも書いたけど演技が上手い俳優陣が集まってクソみたいな人物を面白くない映画の中で歩かせると、もう、体調を崩すほどに面白くない。これを演技の下手なド素人がやってたら笑える映画になってたかもしれない。

 主人公がかつての友人とコンタクトを取ることに成功し、「家に来て、話したいの」、と誘うと友人がそれを断って他の場所で落ち合いましょう、と返すので友人との密会場所をよそにするんですが、これによって本当の夫を知っている友人が家に来ることがなくなり、夫の正体が露見するタイミングが遅れる。で、友人がなぜ主人公の家に来ることを拒んだのか、という理由が友人の口から語られて、実は過去に私は貴方の夫と一回だけ寝てしまったから罪悪感で近づけないの、ということを明かされる。ここらへんも微妙に感じてしまう。それぞれの登場人物の思惑によって行動が真相の暴露から遠いところへいくのはよくあるんですけど、こういう形で夫の正体への肉薄を避けておいて、ニアミスしていたように見せかけて後から普通に友人が電話してきて「さっき旦那さんに電話したら四年間あなたとは会ってないって言ってたわよ。あなたが今一緒に暮らしてる人は夫じゃないわ」と教えてくるのがセンスなさすぎる。出し渋ったりすぐに公開したりで情報の出し方がダメ。これが英国推理作家協会最優秀新人賞受賞?嘘だろ?

友人との会話の中で、あなたが記憶を失くす前、主人公が子育てと同時に教師の仕事を始め、忙しさで憔悴しきっていたものの、暫く立つと見違えたように元気になって、着る服装まで変わってきたのよ、そこで不倫を疑って私があなたを問い詰めたら白状したわ、愛人ができてたって、みたいな情報が出てきて、ここで映画の冒頭に夫(のフリをしていた愛人)が、僕は教師の仕事をしている、と主人公に説明するシーンと繋がっているんですが、これも良いリードじゃないし普通に分かることが普通に表に出てくる、って感じで悲しかった。

 

 いちいち車がクラクション鳴らしながら目の前を通りすぎて主人公があわや轢かれそうになるようなシーンが何回か入るんですが、なんの意味があるのかさっぱり分からないし話の本筋と違うところで音のデカさだけでびっくりさせるのは悪手。何がしたいんだ。脚本も演出も音楽も良くなかった。ふてぶてしさやわがままさの演技は良かった。全体的にはひどい。浮気、不倫に対して自分は寛容なほうだと思っていたんですが軽薄で無責任で経緯の適当な浮気を見てると普通にムカつくから別に寛容ではなかったのかな、と発見があった。

こんな内容で薄っぺらいくせに家族愛大切!みたいなオチの付け方も腹立つ。お前そんな映画じゃないだろ。全てが浮いてる。

あと『メメント』は最高に面白い映画だったんだなと改めて思いました。