生まれて初めて 五針縫ったよ

 3月1日。お引っ越しの手伝いをしに行った。

お世話になっている人が引っ越すことになり、お手伝いが私でよければと参上。

旧居の中から家財を玄関まで運び出して業者さんに渡し、また新居で受け取って部屋まで運ぶ、という手伝いだった。そのぐらい手伝うと料金が安くなるらしい。

そういうわけで家具を次々と運び出していたら、机に備え付けられた棚を外そうとしていたときに、棚を固定するネジ(机から上に突き出している長ネジの頭を通す空洞が開いていて、そこに棚を差し込んだ後に90度回転させると空洞が閉じてツメが長ネジの頭をくわえこみ固定するネジ)が1mmも動かないまま破損して割れてしまい、棚が外せなくなってしまった。

業者さんいわく「棚を外さずにこのままの大きさで机ごと運ぶと、トラックに乗せづらいし、新居のエレベーターに乗らない」とのことだったので、なんとかして棚を机から外すべく、ネジ破壊作戦が始まった。というか勝手に始めてしまった。

 

マイナスドライバーをネジの頭に押し当て、ドライバーのケツをぶん殴ってノミのような使い方をしてネジに亀裂を入れ、あとはカッターナイフを亀裂に押し込んでぐいぐい動かし、なんとかネジを壊して棚を外すことができた。途中、なにか手に痛みを感じたものの、特に気にせず急いで棚と机を運び出し、トラックに乗せてから、さて、なんか右手の小指が痛いけど、捻挫でもしたのかな?と軍手を外してみた。

 

なんか血が出てる。擦過傷かな、と思いながら水で洗い流す。変な痛みが走る。洗われて綺麗になった傷口をよく見ると、なんだか深めにざっくりと切れていた。傷の具合を確認しようと指を伸ばしたり曲げたりした瞬間、ぱっくりと傷が割れて血がどばーっと出てきた。結構痛い。あっ、これ動かしちゃいかんやつだ、と思って急いで指を押さえつけ、引越業者さんから絆創膏を渡されてキツめに巻き、とりあえず作業の途中だったのでそのまま新居まで向かい、また荷降ろしに戻った。絆創膏をありがとう。

荷降ろしの最中に、本棚を持ち上げようとして右手の小指に力を入れてしまった途端、また血が噴き出してきた。キツめに巻きつけた絆創膏の端からどんどん流れてくる血を見ながら段々恐ろしくなってくる。祖母ゆずりで血や傷口を見るのが苦手なので、痛みや出血よりも精神的に参ってきて「どうして私は手伝いに来て怪我して役立たずになってるんだ……」という後悔と申し訳無さが押し寄せてくる。また水で血を洗い流し、今度は家主の人から新しく絆創膏を貰って巻きつけた。絆創膏をありがとう。なんか元から深かった傷が負荷を加えたら余計に裂けたらしく、絆創膏を剥がすのも貼るのも恐ろしく痛かった。

その後は何も運べなくなったので「何か手伝えることはないですか?」と手持ち無沙汰と痛みと申し訳無さの渦の中で静かに半狂乱になりながらふらふわ歩いていたものの結局特にできることがなくて、そのあとは新居の近くで引っ越しそばをごちそうになった。ごちそうになっているのに安めのたぬきそばじゃなくて合鴨そばを頼んでいたので私はバカなんだと思う。合鴨そばおいしい。

保険証を不携帯だったので自宅まで戻り、そのあと形成外科の医師が勤務している病院を探すも、どこも担当医が不在で見つからず、救急相談センターに頼んで近場で縫合をすぐにしてくれそうな病院を紹介されて駆け込んだ。

形成外科の医師は結局一人も捕まらず、消化器外科の医師が処置に当ってくれた。医師に「普段は胃腸のほうを縫ってるので指は専門外ですし、何か少しでも違和感があったり動かなくなったりしたら形成外科に行ってくださいね」と言われながらテキパキと縫われていく。麻酔が効きすぎて痙攣する死体みたいになりながら人生初の縫合に怯えていた。初縫いだ。はつぬい……?

無事に縫合が終わったあと、そのままとんぼ返りで引っ越し作業のほうへと戻った。と言うには語弊がある。そもそも引っ越しを手伝うにあたって「終わったあとで肉をおごります」と言われてそれを楽しみにしていたので、焼き肉目当てで戻った、というのが正しい。

再度旧居へと向かい、掃除機をかけたりしてから、満を持して焼肉屋へ。引っ越しと北海道大学短歌会の優勝を祝して、食べたことのない牛の内蔵をたくさん食べた。肉を切らせて肉を食う。割と物事を関連付ける能力に欠落しているので、右手の小指の裂傷から生肉を見たあとでも食欲を損ねることが一切無く肉をおいしくいただいた。

 

というわけで生まれて初めて五針縫ったんですけど、あれですね。怪我すると痛いし不便だし気をつけないと。いつ怪我したのか覚えてないくらい注意力が落ちているので、もう少し慎重に生きようと思います。そして今はと言えば思いっきり熱が出て寝込んでます。風邪を引きました。健康は大事。