サンドイッチぜんぶ食うなバカ

 コミティアと文フリに行ってきた。行けなくなる寸前だった。行けたと言えるんだろうか。

元陸上部(幽霊部員)の意地で全力疾走したけど、そんな数秒の差でどうにかなるような遅刻ではなく盛大なヤツをやらかして、コミティア会場に入ったらすでに撤収が始まっていた。おつかいを頼まれたサークルに行ってみると誰もいなかった。悲しい。

本を渡す約束をしていた人には会えたので、本を渡して、あと寄稿したサークルで新刊を受け取って、そのあとは文フリ会場まで急いだ。もうここらへんから記憶が曖昧だ。走ると記憶が飛ぶ。

雨が降ってきて滑りやすくなった階段をおもいっきり10段飛ばしくらいで切って着地したら案の定滑って、でもその勢いのままコケずに走ってたら楽しくなってきて、ああ、陸上部、ちゃんと出とけばよかったなあと柄にもなく思ってしまう。陸上に階段飛ばしって競技があったら絶対にやってた。

 

 文フリ会場では初対面の人と会えて嬉しかった。開場してすぐに一般参加で来てた人が閉会間際まで待ってたので本当に申し訳なかった。私が遅刻せずに行ってれば話す時間がたくさんあったのに、勿体無いことをした。

遅刻によって私が失ってきたものって機会だから、失った機会は数えることができないし、だから遅刻の重大なヤバさを自覚できてないんだろうな、と思う。何かが発生するのを摘み取るのは危ない。何かが発生する時間を持つのだって危ないのかもしれないが、でもそういう危険がなくちゃ楽しくない。階段飛ばしとは別のスリルだ。飛ばさないで歩くのが苦手で、ともすれば走りっぱなしだけど、もっとゆっくり余裕を持って生きていきたい。

 

 文フリが終わったあとに喫茶店でサンドイッチを頼んで、二切れあったので一切れをMさんとYさんに勧めたら、Mさんは一口だけ食べて味見で済ましたのに、Yさんは全部がばっと平らげてしまった。620円のサンドイッチセットでアイスティが付いてきて、そのうち200円はYさんが出してくれたけど、でもサンドイッチ一切れ全部食べちゃうのは正直どうなんだ。ちょっと待ってほしい。あまりのことに指摘するタイミングが掴めなかった。Sさんが帳簿を付けているのを眺めながら、いつサンドイッチの話を切り出そう、と考えていたら自分でも忘れてしまっていた。人が帳簿を付けてるのを見るのは楽しい。自分で帳簿を付けるのも楽しいけれど、計算が間違っているので怖い。

というわけで上手く計算できないが、620円のサンドイッチセットの内訳はたぶんサンドイッチが殆どだと思うので若干Yさんは金銭的にも余計に食べてるはず、でもそこらへんはどうでもいい。前に居酒屋でYさんに奢ってもらったこともあるし、おそらく私の借りのほうが大きい。

でもそういうことじゃないんだ……サンドイッチ……(食べるつもりだったのに食べられなかったという感情が理屈を越えてYさんを責める)。

焼き肉が下手と公言する彼だけど、サンドイッチをすすめられて一口で済まさないところにその片鱗が若干見えたので、なるほどな、「焼き肉が下手」というわけのわからない稀有な才能、これか、と納得しつつある。

たぶん私が焼いてた肉でもYさんは躊躇なく食う。強い。最強すぎる。百獣の王かよ。今度は焼き肉に行ってみましょう。